開発法(マンション分譲事業を前提)における投下資本収益率は、投下資本に対する標準的な収益率を示す概念であり、①借入金利(又は自己資本配当率)、②開発利潤率、③危険負担率により構成される。
これは、開発法の適用において、開発期間に発生する収入や費用を価格時点に割り戻すための率として用いられることとされているが、では、どのように査定したら良いのか?北九州のデベロッパーの仕入担当からヒアリングした内容を踏まえて、現時点での私の理解について説明していきます。
①借入金利
これについては、比較的簡単です。デベロッパーが銀行から融資を受ける際に発生する金利です。属性によりますが、一般的に1.5%前後です。
②開発利潤率及び③危険負担率
これは、両者別々に把握する事は困難です。デベロッパーの意思は、両者含めて独自の利益計算を行い(基本的には粗利で投資採算性をみるものの、その粗利の内訳は、販管費の一部を含む)、一定の利益率を指標としています。
Ⅰ.デベロッパーの投資意思の指標について
(1)デベロッパーが指標とする数字とは?
土地を仕入れるに当たっては、スピードが重要であり、係る経費を細かく全て計算して、意思決定していたら、競争に勝てないことから、簡易的な計算をしています。
利益率=(販売総額-建築工事費等-販管費の一部)÷販売総額
この利益率をおおよそ22%以上確保可能であれば、投資対象となります。
なぜ販管費ではなく、一部なのかと言うと、固定資産税や都市計画税、本社経費等は、すぐに把握することが困難であり、実際に販売終了した結果、会社の純利益を計算する上で表面化してくることから、これも織り込んで投資意思決定することは難しいからだと考えます。
(2)それぞれの科目の内訳は?
<税抜き販売総額>
販売価格
<税抜き建築工事費等>
①土地代金
②仲介手数料
③登記、解体費
④建設費
⑤設計料
<販管費の一部>
①販売委託費(自社販売時の人件費) 3%
②近隣対策費 1%
③広告宣伝費 1.5%
④モデルルーム運営等の費用 2%
⑤その他(値引き等) 1%
⑥プラスα(地下埋設物、土壌汚染、埋蔵文化財等)
Ⅱ.投下資本収益率の査定
まず、デベロッパーへのヒアリングの際に、粗利○○%と言っても、会計上の粗利(売上総利益)と異なることが多いことから、その内訳について確認することが必要だと考えます。その上で、「付帯費用」で考慮する科目を控除して、投下資本収益率を査定します。
例えば、上記のような内訳であるとヒアリングできた場合については、以下のような流れが考えられます。
(1)純利益(開発利潤率及び危険負担率)を査定する
利益率(22%)−販売費の一部(8.5%)−販管費の残り(3%)−金利(1.5%)=9%
(2)金利を加算する
9%+1.5%=10.5%
よって、この場合、投下資本収益率は、10.5%となります。
Ⅲ.まとめ
いずれにしても、デベロッパーへのヒアリングにおいて、投資意思を決定する数字と、その内訳を把握することが重要であり、そこから、付帯費用に含まれる科目を査定し、除く作業が必要だと考えます。
不動産の鑑定評価においては、典型的な需要者の意思をどこまで把握できるかが、開発法の精度に影響を及ぼすことから、日頃からデベロッパーの仕入担当と人間関係を作っておくことも大事な作業かと思います。
ご意見等ございましたら、コメント頂けると幸いでございます。
不動産鑑定士 岸
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